メタバースで考える葦になる
2022.02.11
ブログ
最近メタバースという言葉を聞くことが増えましたね。メタバースという言葉はもともと、「スノウ・クラッシュ」という小説のなかで出てきた言葉ですが、最近はメタバースがリアルな生活のなかにも結構溶け込んできたなあと感じます。
さて、そんなメタバースの世界を題材にした作品は他にもたくさんあります。私の大好きなアニメ、「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」もメタバースを題材とした作品の一つです。初めてこのアニメを観たのは私が学生の頃。そのころの私には内容が難解すぎて何度も観た記憶があります。
このアニメの中で一つのテーマとして取り上げられていたのが、「人は肉体を喪失しても心(魂)のみで、ネットの海の中で生き続けられる(意識は残る)か」という問い。。
皆さんはこの問いかけに対してどう考えるでしょうか。
たとえば思考をプログラム化して、仮にそれを心(魂)と解釈するのなら、ネットの中でそのプログラムが動き続ける限り、心(魂)は肉体を離れてインターネットの海の中で生き続けることができるかもしれません。また脳だけを取り出して、必要な栄養を供給しながら思考だけを続けるということもできるようになるかもしれません。
だけど、やっぱり「体のない脳(思考する存在)だけで形成される心」は「体を有している人の心」とは全く違うものだと思います。これは哲学的な意味だけでなく、脳が身体の他の器官と密接に関わっていることが関係している。主に心を司る臓器は脳です。その脳は実は恐ろしいほど多くのフィードバックを体中の他の器官から受けている。痛いとかお腹がすいたというような感覚のフィードバックだけでなく、腸脳相関といわれるように腸の状態がメンタルに影響することもあります。
他にも脳が体の器官や状態から影響を受ける例はたくさんありますが、一つ分かりやすい例をあげると、「身長による思考への影響」があると思います。身長が変わると思考が変わるなんて変な話のように思えるかもしれません。しかし、身長が変わることで世の中を見る(物理的な)視点が変わり、それが(心理的な)視点に影響を与えるのです。具体的な例を挙げてみましょう。ここに人の銅像があるとします。その銅像を上から見下ろすのか、下から見上げるのかでその銅像への印象が変わるといわれています。上から見下ろした場合より、下から見上げた場合の方が、その銅像に対してより尊大な印象を受けやすいのです。実際に活用されている例としては、選挙の報道です。選挙で候補者を撮影する場合は、基本的に候補者を真正面から撮影するそうです。これは下から映したり上から映したりすることで、本人たちのメッセージ以外に余計な印象を与えないためです。対象物をどこから見るかでその対象物への印象は変わってしまうのです。
これは体から受ける思考への影響の一つですが、もちろんその影響は身長やそれに影響される視覚の話だけではありません。この肉体だからこそ知覚できる感覚がある、また肉体そのものの状態が思考を変化させる。無意識的に、自分の思考はあらゆる肉体的な刺激から影響を受けているのです。
しかし、もし脳だけを取り出したら、これらの影響は無くなります。体からのあらゆる刺激がなくなったとき、その人の思考は、脳だけ取り出す前と同じものでいられるのでしょうか。私はきっと全く別人になってしまうと思います。良くも悪くも、私という体だからこそ得られる感覚があって、普段意識していなくともそのフェードバックは私の思考に大きな影響を与えている。
脳だけ取り出した人間というのは(私の知る限り)まだいませんが、もしかしたらメタバースでも同じようなことが言えるかもしれません。メタバースではVR眼鏡などを用いることで、実際の世界での視点とは異なった視点を獲得できるようになります。血液の中を漂う細菌の視点で世界をみることもできるのです。そうやってリアルな世界では経験不可能な刺激を様々体験できるようになると、人間の思考は今とは違うものになっていくのかもしれません。
私はこの変化が必ずしも悪いものと思っているわけではありません。ある意味、私の肉体から切り離された脳はどのように思考するのか興味深くもあります。肩が凝ったり、足がだるかったりそういった煩わしい感覚から解き放たれた脳が思考するものは一体どのようなものになるのでしょうか。
技術や現象はそれ自体に良し悪しはない。結局は人間がどのように使ってどう解釈するのか。脳だけ取り出した人間が、肉体を有していたときの人格と変わってしまったとしても、それが必ずしも「悪」ではない。変わってしまったものに対してどう意味づけるかは自由なのです。これからメタバースという新しい空間を利用してどんな世界を創り、そこに意味を見出していくのかは、私たちの意思しだいです。
参考URL
https://news.yahoo.co.jp/articles/2f93693b37dd4b3ba09eef6c45b656874c0e0b60