意思決定を支えるとは

タイトルについて述べる前に、まず「意思決定」という言葉の定義について確認しておきたい。

「意思決定」とは「問題解決に当たって,実行可能な行為の中から最適と思われるものを選択すること。」である。

ただ医療現場で「意思決定支援」が倫理的に問題になるのは、「生命が危機状態に陥ったとき、救命処置をどこまで行うのか」といった内容であることが多いように思う。

しかし今回は、もう少し広い意味での「意思決定」について考えたいと思う。死ぬ間際の対応ではなく、「患者がどのように生きたいか」を支える看護とはなにかについて考えてみる。

「患者さんがどのように生きたいか」について支援するためには、まずなにより大切なのは、「患者さんの思い」を聴くことである。偽りや遠慮、羞恥心や誰かへの気遣いなどを一切排して、純粋な「思い、望み」を話してもらうのは簡単なことではない。

看護師とは言ってしまえば患者さんにとって赤の他人である。家族でも友人でもなければ、たいていの場合担当になる看護師は患者が選んだ人間でもない。そんな赤の他人に、人生における最も重要ともいえる選択について話そうなんて思わないのが自然だと思う。だから、看護師は患者が「純粋な願い」を話してくれるように、努力しなければならない。待っていても患者は心を開いてくれないのだ。

患者さんの純粋な願いを知るために、私は「謙虚に問いかける」ということが大切だと思う。これは「問いかける技術」という本の中で述べられている手法だが、私が実際に看護現場で実践してきたことを振り返ると、患者さんが素直に自分の望みを話してくれたときは、この「謙虚に問いかける」ということをおこなっていたときだと思う。

まず重要なのは、患者さんに興味をもって接するということである。業務的に質問しているのか、本当に興味をもって聞いてくれているのかは、患者さんには伝ってしまうものである。ときには、こちらが聞きたい内容でないことを患者が話し始めることもよくある。業務として考えれば、看護師として聞きたいこと以外の話に時間を費やすのは無駄なことのように思える。しかし、看護師が聞きたいことだけ聞いて、他の話しは聞きませんでは患者さんに興味をもって接していると言えないだろう。患者さんの話したいことにも耳を傾けることで、患者さんは「自分に興味を持ってくれているんだ」と感じるのではないだろうか。

次に重要なのが、情報提供は必ず患者の思いを聴いてから行うことである。人は自分のもっている情報や知識があればあるほど、相手に教えてあげたい、教えてあげなくてはと思いやすい。しかし、相手の思いを聴きたい場合は、先に情報提供を行うことで、意図的でなくても自分の意見に誘導してしまったり、患者の思いを歪めてしまうことにつながりかねない。

だがこのように考えていても、なかなか患者さんの思いを聴くことができていないこともたくさんある。一番の障害となるのは時間の問題である。時間はつくるものというが、現在の看護師に課せられた業務と定められた業務時間を考えると、患者さんの話を聴くために時間をつくることは非常に困難なように思える。

じっくりと患者に向き合って話を聴くには、現在看護師に与えられている他の業務を削減するか、患者さんの話を聴く時間を業務自時間外として確保するかのどちらかが現実的だろう。看護師の業務は多岐にわたる。私は、看護師が現在行っている業務のなかで、本来看護師がやるべきではない業務もたくさん含まれていると感じている。書類の整理やコピー、車椅子の空気入れ、食器洗い、手洗い場の手拭きペーパーの補充、病棟の大掃除、患者さんの買い物の代理などなど挙げればきりがない。

内閣府が取り組んでいる「ムーンショット型研究開発制度」では、医療・介護を取り巻く環境へのイノベーションについても記載されている。

9つの目標が掲げられているなかの7項目目に、「個人の状況にあった質の高い医療・介護を少ない担い手でも適切に提供できる技術基盤を構築する」ということが記載されている。

すでに国は、医療者の人手不足に対して「技術基盤を構築する」ことで解消しようという目標を掲げているのだ。これは遠い未来の話しではなく、2030年までに達成する目標として設定されているものである。その社会が実現するとして、「技術基盤が構築された」医療環境のなかで、看護師が存在する意義とはなんだろうか。

あらゆる技術・サービスが、AI・ロボットに置き換えられていくなかで、最後に残るのは「人が人に思いを聴いてほしい」という欲求であると思う。自分の意思をAIやロボットではなく、「人」に聴いてほしいという思いである。

そう考えると、看護師が取り組むべきなのは、「人」以外でもできることを積極的に機械に任せる。そして患者が話を聴いてほしいと思える「人」になることに労力を割くべきではないだろうか。

参考文献・サイト 

「最新 心理学事典」、「日本看護協会HP」、「問いかける技術 エドガー・H・シャイン」、「内閣府HP ムーンショット型研究開発制度」

健康に影響大⁉︎自己効力感(セルフ・エフィカシー)の高め方と自己肯定感との違いとは

自己効力感が高いと得られる効果

自己効力感とは

自己効力感とは簡単にいうと、自分に対する期待や自信のことを言います。

「自己効力感(self-efficacy・セルフ・エフィカシー)」 とは、カナダ人心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念です。

自分には能力がある、自分なら達成できると思える人は自己効力感が高く、自分には能力がない、どうせできないと思っている人は自己効力感が低いと言えます。

自己効力感と自己肯定感の違い

自己効力感は自分に対する評価であるのに対し、自己肯定感はありのままの自分を受け止めることを指します。能力や容姿、財産などにかかわらず自分自身を価値ある存在だと認められる人が自己効力感が高いと言えます。

自己効力感を高める効果

自己効力感を高めると物事を肯定的に見ることができます。そして新しいことにチャレンジする力も、困難を乗り越える力も高まります。

この自己効力感は健康面でも影響しています。病気を予防するための健康行動をとる、または生活を改善するために積極的に規則正しい食生活や運動習慣を取り入れる、なども自己効力感が高い人ほど行動につながりやすいのです。

またがんや慢性疾患を持つ患者さんも自己効力感を高めることで副作用の辛さや疾患への受け止め方を軽減できたり、QOLも高まる傾向にあります。

自己効力感の高め方とは

ポジティブな体験を思い出す

過去に体験した肯定的な体験を書き出してみましょう。それはちょっとしたことでも大丈夫です。小さい頃のことでもいいですし、人に褒められたことや感謝されたことなど、自分の中でポジティブな印象として残っていることをより具体的に思い出します。

目標を達成している自分をイメージする

脳は実際にあったこととイメージしたことを区別できません。そのため事実かどうかより、達成したいかどうかの方が成し遂げる上では重要なのです。

ポイントは未来の成功体験をよりリアルに描くことです。

・目標を達成した時誰と一緒にいて、どんな風景が見える?

・目標を達成した時聞こえる声や音は?

・目標を達成した時どんなことを感じる?

自分に問いかけながらイメージを膨らませてください。

言葉の説得で高める

あなたならできる、こうすればもっと良くなる、などの他者からの肯定的な言葉はモチベーションアップにつながります。だからこそまずは自分を認めてくれる、信頼できる環境を見つけ、相談相手を正しく選ぶことが重要です。

家族や友人でもいいですし、専門家に相談するのもおすすめです。

体調を整える

疲れている時、ストレスが溜まっている時、寝不足の時など体調が悪い時は物事を悪い方向に考えてしまいます。まずは規則正しい食事と睡眠をとり、自分の体を整えることを意識しましょう。

ご自身の心と体の健康のためにも、まずは自己効力感を高められる習慣を日常に取り入れてみてください。

ウェルビーイングナースではオンライン上で看護師による個別サポートもしています。

辛い時は一人で悩まず、お気軽にご相談くださいね。

(参考)

坂野雄二・東條光彦(1986),「一般性セルフ・エフィカシー尺度作成の試み

林亜希子・安藤詳子(2010),「外来がん化学療法患者における自己効力感の関連要因

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