「社内でマーケティングを進めたい」
そう考えたとき、最初の課題になるのが担当者の育成です。
営業、広報、事務、Web担当など、すでに別の仕事をしている社員が、マーケティングを兼任するケースも少なくありません。
担当者が決まると、SNSの投稿方法、広告管理画面の使い方、アクセス解析など、具体的な施策やツールから教えたくなります。
もちろん、実務を進めるには必要な知識です。しかし、操作方法だけを教えても、自社に必要なマーケティングを考えられる人材にはなりません。
マーケティング担当者を育てるとき、最初に教えたいのは「施策のやり方」ではなく、「事業の目標とお客様から考えること」です。
会社の目標を理解し、顧客の状況を考え、仮説を立て、優先順位を判断する。この土台があることで、個別の施策やツールを成果につなげられるようになります。
「投稿できる人」と「マーケティングを考えられる人」は違う
SNSを更新できる。広告を入稿できる。記事を書ける。アクセス数を集計できる。
これらは、マーケティング業務を進めるうえで大切なスキルです。
ただし、決められた作業ができることと、マーケティングを考えられることは同じではありません。
たとえば、担当者が毎週SNSを更新していても、誰に何を伝えるのか、投稿を見た人に次にどのような行動をしてほしいのかが決まっていなければ、更新そのものが目的になってしまいます。
アクセス数を毎月集計していても、数字が増減した理由を考え、次の施策に反映できなければ、報告だけで終わります。
担当者に必要なのは、作業をこなす力だけではありません。
- なぜ、この施策を行うのか
- 誰に届けるのか
- どのような変化を起こしたいのか
- 何を成果として確認するのか
- 結果を見て、次に何を変えるのか
こうした問いを持ちながら、施策を選び、実行し、改善する力が必要です。
最初に教えたい4つの視点
1.会社が目指していることを理解する
マーケティングは、事業から独立した活動ではありません。
会社として何を目指しているのか。その目標を達成するために、マーケティングには何が求められているのか。まず、その関係を理解する必要があります。
同じ「売上を増やしたい」という目標でも、会社によって課題は異なります。
新規顧客を増やす
認知や見込み客との接点、問い合わせまでの導線を整えます。
リピートを増やす
購入後のフォローや再購入のきっかけをつくります。
客単価を上げる
商品構成や提案方法、価値の伝え方を見直します。
目標が違えば、優先する施策も、確認する数字も変わります。
担当者に施策を任せる前に、会社の事業、売上の仕組み、今後伸ばしたい商品や顧客について共有することが大切です。
担当者と共有したいこと
- 会社が今期に目指していること
- 売上が生まれるまでの流れ
- 利益を生み出している商品やサービス
- 今後伸ばしたい顧客や市場
- 現在、事業成長を妨げている課題
2.お客様が行動するまでの流れを見る
お客様は、投稿や広告を一度見ただけで、すぐに購入するとは限りません。
会社や商品を知り、興味を持ち、自分に必要かを考え、他の選択肢と比較しながら、問い合わせや購入へ進みます。
- 会社や商品を知る
- 興味を持つ
- 価値や違いを理解する
- 他の選択肢と比較する
- 問い合わせる
- 購入・契約する
担当者には、自分が担当する施策だけでなく、お客様が購入するまでの流れ全体を見てもらう必要があります。
たとえば、SNSの反応が良くても、プロフィールからWebサイトへ移動できなかったり、Webサイトでサービス内容が伝わらなかったりすれば、問い合わせにはつながりません。
広告のクリック数が増えても、問い合わせる人が自社の顧客像と合っていなければ、商談や契約にはつながりにくくなります。
施策ごとの数字だけでなく、お客様が次の段階へ進んでいるかを確認することが大切です。
3.正解を探すのではなく、仮説を立てる
マーケティングには、最初から分かっている正解がありません。
他社で成功した施策をそのまま実施しても、自社で同じ結果が出るとは限りません。商品、顧客、価格、地域、タイミング、社内体制などの条件が異なるからです。
そこで必要になるのが、仮説を立てて試す考え方です。
「このお客様には、料金よりも導入後の流れを伝えたほうが安心してもらえるのではないか」
「問い合わせが少ないのは、サービスの違いが分かりにくいからではないか」
「SNSから事例ページへ案内すれば、検討が進みやすくなるのではないか」
仮説を立て、施策を実行し、結果を確認する。その結果をもとに、次の行動を考えます。
ここで大切なのは、担当者に「失敗しないこと」を求めすぎないことです。
失敗しないことを優先すると、担当者は正解や指示を待つようになります。
結果だけで評価するのではなく、「なぜそう考えたのか」「結果から何が分かったのか」を話し合うことが、考える力を育てます。
4.すべてをやろうとせず、優先順位を決める
マーケティングには、多くの選択肢があります。
SNS、広告、Webサイト、記事、動画、LINE、メール、PR、イベント。情報を集めるほど、どれも必要に見えてきます。
しかし、社内で使える時間や予算には限りがあります。
担当者を育てるときは、施策を増やすことだけでなく、「今は何をやらないか」を判断する視点も伝える必要があります。
施策を選ぶときの順番
- 今の事業目標は何か
- 目標に対して、どこが課題なのか
- その課題に最も影響する施策は何か
- 現在の体制で実行と改善を続けられるか
「流行しているから」「競合がやっているから」ではなく、自社の課題に必要かどうかで判断することが大切です。
施策を始める前に整理すべき内容については、関連記事「マーケティング施策を始める前に整理したい4つのこと」もあわせてご覧ください。
育成初期に任せたい仕事、まだ任せなくてよい仕事
担当者を育てようとして、最初からSNS、広告、Webサイトなどをすべて任せると、本人も何から考えればよいか分からなくなります。
育成初期は、会社や顧客を理解し、小さな仮説検証を経験できる仕事から始めるのがおすすめです。
| 最初に任せたいこと | 目的 |
|---|---|
| 既存顧客の声を整理する | 顧客が感じている価値や選ばれた理由を理解する |
| 問い合わせの内容を分類する | 顧客が抱えている課題や不安を把握する |
| 現在の施策と数字を一覧にする | マーケティングの現在地を把握する |
| 競合の発信や導線を調べる | 自社との違いや市場の伝え方を理解する |
| 一つの施策で仮説検証する | 実行、確認、改善の流れを経験する |
一方、目的や判断基準を共有しないまま、年間戦略や広告予算の配分などをすべて任せるのは避けたほうがよいでしょう。
経験に応じて判断できる範囲を少しずつ広げていくことが重要です。
担当者を育てる最初の30日
1週目:事業と顧客を知る
- 会社の目標や事業方針を共有する
- 商品・サービスの特徴を確認する
- 既存顧客や問い合わせ内容を見る
- 営業や現場の担当者から話を聞く
2週目:現在地を整理する
- 現在行っている施策を一覧にする
- 施策ごとの目的と担当者を確認する
- 分かる範囲で数字を整理する
- お客様が購入するまでの流れを描く
3週目:課題と仮説を考える
- どこでお客様が止まっているかを考える
- 顧客に伝わっていない情報を探す
- 改善できそうな点を複数挙げる
- 優先順位について上司や経営者と話す
4週目:小さく実行して振り返る
- 一つの仮説を選ぶ
- 実行内容と確認する数字を決める
- 小さな範囲で施策を試す
- 結果と学びを共有する
最初の1か月で大きな成果を求めるのではなく、マーケティングを考える基本的な流れを経験してもらうことが大切です。
担当者だけに任せきりにしない
マーケティング担当者を育てるというと、担当者本人の知識や努力に注目しがちです。
しかし、担当者が成長できるかどうかは、会社側の関わり方にも左右されます。
事業の目標や経営上の判断が共有されないまま、「SNSを更新しておいて」「問い合わせを増やして」とだけ伝えられても、担当者は適切な判断ができません。
また、施策を実行しても、結果を振り返る機会がなければ、経験を次に生かすことも難しくなります。
定期的に話し合いたいこと
- 会社や事業の状況に変化はあったか
- 現在、優先すべき課題は何か
- 実施した施策から何が分かったか
- 続けること、やめること、変えることは何か
- 判断や実行で困っていることはないか
担当者に任せながらも、判断に必要な情報を共有し、一緒に振り返る場をつくることが重要です。
社内担当者との役割分担や、実務を通した内製化支援については、サービス・支援の進め方でご紹介しています。
マーケティング担当者の育成チェックリスト
- 会社の目標とマーケティングの役割を説明できる
- 主な顧客像と、その顧客が抱える課題を説明できる
- 商品やサービスが選ばれる理由を説明できる
- お客様が購入するまでの流れを把握している
- 担当施策の目的を説明できる
- 施策の成果を判断する数字が決まっている
- 結果から次の仮説を考えられる
- 優先順位を相談できる相手がいる
- 定期的に施策を振り返る機会がある
できていない項目があっても、担当者本人だけの問題とは限りません。
会社側の情報共有や役割設計、判断できる環境が不足していないかも確認してみましょう。
育てるべきなのは、ツールを使う力だけではない
マーケティングのツールや手法は、これからも変わり続けます。
今使っているSNSや広告の仕様も、数年後には変わっているかもしれません。
一方で、事業の目標を理解し、お客様の行動を考え、課題に合わせて施策を選び、結果から改善するという基本は変わりません。
マーケティング担当者を育てるとき、最初に教えたいのは個別の施策よりも、この考え方です。
「何を投稿するか」ではなく、「なぜそれをするのか」を考えられる人を育てる。
それが、会社の中にマーケティングの力を蓄積していく第一歩になります。
この記事を書いた人
打田 沙織|株式会社rasiku 代表取締役
成長企業のマーケティングチームとして、事業や顧客、現在の課題を整理し、戦略設計からSNS・広告・Web・PRなどの実行と改善まで支援しています。
社内にマーケティングチームがなくても、
戦略から実行まで進められます。
rasikuは、成長企業のマーケティングチームとして、現状の整理から施策の実行・改善まで支援します。
