「もっと主体的に動いてほしい」
経営者やマネージャーから、よく聞く言葉です。
指示されたことはできる。しかし、自分から提案しない。何かを決めるたびに確認が必要で、新しい仕事を任せてもなかなか前へ進まない。
特にマーケティングのように、正解が一つではない仕事では、このような問題が起きやすくなります。
ただ、本人に「もっと主体的に」と伝えるだけでは、行動はほとんど変わりません。
私自身、コーチングを学ぶなかで強く感じてきたのは、人は正しい答えを与えられただけでは、必ずしも主体的に動けるようにはならないということです。
自分の考えを言葉にし、自分で選び、自分で決める。そのプロセスがあって、初めて行動が「自分のもの」になります。
先に結論
社員が主体的に動かないとき、本人の意欲だけを問題にするのではなく、安心して考えを話し、自分で判断し、小さく行動できる環境があるかを確認する必要があります。
必要なのは、指示を増やすことではなく、本人が考えられる対話と環境を設計することです。
主体性は、外から与えられるものではない
人に主体的に動いてもらおうとして、細かく指示を出したり、正しい方法を教えたりすることがあります。
もちろん、知識や経験がない段階では、具体的な指示や情報提供も必要です。
しかし、上司が常に答えを出していると、担当者は次第に「上司に聞いてから動く」ようになります。
上司にとっては育てているつもりでも、本人が考える前に答えを渡し続けることで、考える機会を奪ってしまうことがあります。
コーチングでは、相手を「答えを持っていない人」として扱うのではなく、その人のなかにある考えや可能性を、対話を通じて引き出していきます。
主体性も同じです。
外から「持ちなさい」と与えるのではなく、本人が自分の考えに気づき、自分で選択できる状態をつくることが出発点になります。
社員が主体的に動けない5つの理由
1.仕事の目的に納得できていない
マーケティングの現場では、次のような指示がよくあります。
- Instagramを週3回更新する
- 毎月4本の記事を公開する
- メルマガを毎週配信する
- 問い合わせを増やす施策を考える
しかし、その仕事を「なぜ行うのか」が本人のなかで理解できていなければ、指示された作業をこなすだけになります。
目的を伝えることと、本人が目的に納得していることは別です。
一方的に説明して終わるのではなく、次のような問いを通じて、本人の理解を確認します。
- この施策は、誰のために行うものだと思いますか
- この仕事によって、何が変わるとよいでしょうか
- 事業全体のなかで、どのような役割があると思いますか
- この目標について、あなた自身はどう感じていますか
本人の言葉で目的を語れるようになると、作業の意味が見え、自分で工夫できる余地が生まれます。
2.自分の考えを話せる安心感がない
主体的に動くには、自分の意見を表に出す必要があります。
しかし、提案を否定されたり、失敗を強く責められたりした経験があると、人は正解が分かるまで発言しなくなります。
会議で「何か意見はありますか」と聞いても、安心して話せる状態でなければ意見は出てきません。
コーチングにおいて、相手の話を評価せずに聴くことは重要な土台です。
これは、すべての意見を肯定するという意味ではありません。
まずは「なぜそう考えたのか」を聴き、相手の考えを受け止める。そのうえで、組織としての判断を伝えます。
意見を採用するかどうかと、相手の考えを尊重することは分けて考えられます。
3.問いではなく、詰問になっている
質問をしていても、それが相手の考えを引き出す問いになっていないことがあります。
たとえば、次のような質問です。
- なぜ、まだできていないのですか
- 前にも説明しましたよね
- 普通はこう考えませんか
- どうして相談しなかったのですか
これらは質問の形をしていますが、相手には「責められている」と伝わる可能性があります。
すると、本人は考えることよりも、自分を守ることを優先します。
一方、主体的な思考を促す問いは、本人が状況を整理し、次の行動を考えられるものです。
- 今、どの部分で止まっていますか
- 進めるために必要な情報は何ですか
- どのような選択肢が考えられますか
- もし制約がなければ、どうしたいですか
- まず何から始めるとよいと思いますか
答えを聞き出すためではなく、本人が自分の考えに気づくために問いかけることが大切です。
4.自分で決められる範囲がない
自分で考えるように求められても、実際にはすべて上司の承認が必要であれば、主体的には動きにくくなります。
一方で、権限や情報を渡さないまま「自由にやって」と任せるのも、単なる丸投げです。
本人が自分で決められる範囲を明確にする必要があります。
- 自分で決めてよいこと
- 事前に相談すること
- 最終承認が必要なこと
- 使用できる予算
- 守るべき期限やブランド基準
選択肢があり、そのなかから自分で選べることが、自己決定につながります。
小さな範囲からでも、自分で決めた経験を重ねることで、仕事に対する当事者意識が育っていきます。
5.行動を振り返る機会がない
主体性を育てるうえで、結果だけを評価するのは十分ではありません。
マーケティング施策は、実行してもすぐに成果が出ないことがあります。また、仮説自体は妥当でも、タイミングや外部環境によって期待した結果にならないこともあります。
結果だけで「成功」「失敗」を決めると、担当者は失敗しないことを優先し、新しい行動を避けるようになります。
振り返るときは、結果とともに判断の過程を確認します。
- 何を意図して、この方法を選んだのか
- 実行してみて、何に気づいたか
- 予想と違ったことは何か
- 次に生かせることは何か
- もう一度行うなら、何を変えるか
振り返りは、間違いを探す時間ではありません。
経験から学び、次の選択肢を増やすための時間です。
主体性を育てる5つの対話
| 対話 | 上司の関わり | 本人に起きること |
|---|---|---|
| 傾聴 | 評価や結論を急がずに聴く | 安心して考えを話せる |
| 問い | 答えではなく、考えるきっかけを渡す | 考えや選択肢が整理される |
| 承認 | 結果だけでなく、行動や変化を伝える | 自分の成長に気づく |
| 内省 | 経験を一緒に振り返る | 判断から学べるようになる |
| 自己決定 | 最後は本人に選んでもらう | 行動への当事者意識が生まれる |
「承認」は、褒めることだけではない
コーチングでいう承認は、単に「すごいですね」「よくできました」と褒めることだけではありません。
相手の行動や変化を、具体的な事実として伝えることも承認です。
- 以前より早い段階で相談できていましたね
- 今回は顧客の視点から提案を考えていましたね
- 自分で三つの選択肢を整理してきましたね
- 結果を受けて、すぐ次の改善案を考えていましたね
このように伝えることで、本人は自分の変化や強みに気づけます。
何がよかったのかが具体的に分かるため、次の仕事でも再現しやすくなります。
教えることと、コーチングを使い分ける
どのような場面でも、問いかければよいわけではありません。
本人が業務に必要な知識を持っていない場合は、まず教える必要があります。緊急性が高いときや、重大なリスクがある場面では、明確な指示も必要です。
一方で、すでに一定の知識があり、本人なりの考えを持てる場面では、すぐに答えを渡さず、問いかけることができます。
関わり方を選ぶ目安
- 知識や経験がない:教える、見本を示す
- 方法は分かるが迷っている:選択肢を一緒に整理する
- 本人の考えがありそう:問いかけて引き出す
- 実行後:結果と判断過程を振り返る
指示すること自体が悪いのではありません。
すべての場面で指示だけに頼ると、本人が考える機会がなくなることが問題です。
マーケティング担当者との対話例
たとえば、担当者から「次のInstagram投稿は何を載せればよいですか」と聞かれたとします。
すぐに投稿内容を指示する代わりに、次のように対話できます。
- 今回の投稿は、誰に届けたいですか
- その人は今、どのようなことに困っていると思いますか
- 自社だから伝えられることは何でしょうか
- 投稿を見た人に、次に何をしてほしいですか
- あなたなら、どのテーマを選びますか
重要なのは、上司が求める正解へ誘導することではありません。
担当者が顧客や目的を踏まえて考え、自分なりの判断を言葉にすることです。
そのうえで、不足している情報や別の視点があれば補います。
主体性を育てる1on1の進め方
担当者との1on1や定例会では、進捗確認だけで終わらせず、考えを整理する時間を設けます。
- 今の状況を聴く
現在どのように感じ、何が起きているかを聴きます。 - 目指す状態を確認する
本人はどうなりたいのか、何を実現したいのかを確認します。 - 課題や思い込みを整理する
何が行動を止めているのか、別の見方はないかを考えます。 - 選択肢を広げる
できることを一つに決めつけず、複数考えます。 - 本人が行動を決める
何を、いつまでに、どのように行うかを本人の言葉で決めます。
最後に上司が行動を決めてしまうと、本人の決定ではなくなります。
必要な支援を確認しながらも、できる限り本人に選んでもらうことが重要です。
環境設計とは、任せきることではない
主体性を育てる環境というと、「口を出さず、自由にさせること」と捉えられる場合があります。
しかし、何も伝えず、何も支援せず、結果だけを求めるのは環境設計ではありません。
必要なのは、次のような土台です。
- 事業や施策の目的が共有されている
- 必要な情報へアクセスできる
- 判断基準と権限が明確になっている
- 安心して意見や相談を出せる
- 失敗を学びに変える振り返りがある
- 考えたり改善したりする時間が確保されている
本人の主体性と、組織の支援は対立するものではありません。
適切な支援があるからこそ、本人は安心して自分で決められるようになります。
まとめ
社員が主体的に動かないとき、「意欲がない」「当事者意識が足りない」と本人だけを問題にしても、状況は変わりません。
コーチングの視点で考えると、必要なのは相手を思いどおりに動かすことではなく、相手が自分の考えに気づき、自分で選び、行動できる状態をつくることです。
- まず相手の話を聴く
- 考えを引き出す問いを投げかける
- 行動や変化を具体的に承認する
- 経験から学べるように振り返る
- 最後は本人が行動を決める
主体性は、指示によって生み出すものではありません。
安心して話し、考え、決められる環境のなかで、少しずつ育っていくものです。
この記事を書いた人
打田 沙織|株式会社rasiku 代表取締役
コーチングを学びながら、成長企業のマーケティングチームとして、戦略設計、施策の実行、社内担当者の育成や仕組みづくりを支援しています。
rasiku
担当者の主体性だけに頼らず、
自ら考えて動けるマーケティングチームへ。
rasikuは、施策を代行するだけでなく、対話を重ねながら、戦略の整理、施策の実行、担当者の育成や仕組み化まで支援します。
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